MKU's View

経営戦略論・組織論を研究しているMKUのブログ。 書評やウェブ上の気になった記事などを載せていきたい。 私自身の思考トレーニングの側面もあるので、まとまりの良さよりも、ちょっとした「引っかかり」を中心に投稿を行っていきたいと思っている。



Monday, August 14, 2006

墓参り代行サービスに見る顧客視点の重要性

かつて、お墓のマーケティングに関してお手伝いをしたことがある。高齢化社会は、同時に沢山の人が死ぬ社会でもある。そのため、これからは墓園、ないし、埋葬のビジネスがひとつの重要なビジネスになってくる。これは非常に勉強になった。
埋葬の方法も今や多様になってきていて、旧来のお墓も運営主体が寺院だけでなく、公共の墓地、民間企業がある。また、ロッカー型墓地や永代供養(共同で埋葬してしまう方法)、海への散骨、はたまた宇宙葬などというものもあった。

しかし、神戸新聞の8月12日の記事によると、最近では高齢者の人を主なターゲットにした「墓参り代行サービス」なるサービスがあるらしい(「墓参り代行業、新たなビジネスに 高齢者に人気」)。
このサービスの面白いところはいくつかある。

ま ず、単純に考えて、高齢者向けの新たなサービスを開拓したという点がある。なるほど、自分で移動するのが億劫になった高齢者を対象にしたサービスというの は、考え方によってはもっと開拓の余地があるかも知れない。しかし、「誰が」開拓したのか、ということを考えると、高齢者を対象にしたビジネスに限らずも う少し広い示唆を得ることが出来るだろう。
仮に、(主に)家族の死を経験した人に提供されるサービスに関する産業を埋葬産業と呼んだとして、同産 業内ではそうした人々が必要とするのは、最終的には埋葬で帰結すると考えられてきたように思える。つまり、いかにして葬るか、ということがゴールであっ た。従って、提供されるサービスも、寺院の墓地に埋葬した場合の法要、墓地の利用料等以外は、一度提供されたら終わりという種類のものが多い。つまり、 「モノ」が売られている。法要や檀家としての勤め等の宗教的なサービスはのぞいたとして、葬儀(葬儀社)や仏壇(仏具店)、墓(石材店)等は、基本的に売 り切りである。

しかし、今回のサービスを行ったのは、墓石を販売する石材店の四国石材である。旧来モノを売っていた石材店が始めた点が面白い。
そ もそも墓石を購入する人は、近親者の埋葬のために購入する。石材店からすれば墓石を購入して貰っているわけであるが、墓石を購入する人にとっては、石が欲 しいというよりも、むしろ死者の冥福を祈り、心の平安を得るために購入しているはずである。実際、墓地を購入する時は、家から近い場所を求める傾向がある が、これは墓が欲しいからというよりも、墓を購入して、それなりの頻度で近親者の冥福を祈りたいからであると考えられる。
そう考えると、なかなか墓参りに行けないような人としては、墓の手入れもままならないような状況で墓が放置されているのではないかと考えると、気持ちが落ち着かない人も多いはずだ。
つまり、墓参り代行サービスは「自分はお墓をないがしろにしているのではない」という本来の墓の購入目的に即したサービスを提供しているという点で、極めて妥当なサービスであると言える。

ビ ジネスとして考えた場合も、モノを売ったら終わりのビジネスから、メンテナンスという新たな収益領域を獲得したという点で興味深い。墓石と墓参りという両 方を提供することで、彼等は埋葬ソリューションを提供する主体となる可能性もある。今後は、墓園や寺院との提携なども拡充されるかも知れないし、墓石以外 の領域とも統合したサービスの提供(例えば、葬儀社が墓参り代行サービスをする等)も考えられる。
ただ一方で、手入れが必要なサイズの墓がどのく らいあるのか、という点を考えると、今後はオペレーションの工夫が必要になってくるかも知れない。なにしろ、都市型の墓地は墓石と墓石の間のスペースがほ とんど無く、手入れは全くしなくても問題ないような墓も多いが、そうした墓地こそ密集度が高く、オペレーションコストを下げやすくなるかも知れないから だ。また、旧来型の墓を持ちたがらない人も増えており、冒頭にも書いたように埋葬の仕方も多様化している。そう言った点からすると、潜在的な事業リスクが 若干見られる(大手小町による調査「自分の墓「不要」5割」)。

し かし、重要な点は、旧来の自社のビジネスモデルで特に「モノ」を扱っている事業では、それに不可避的に生じるサービスを組み込むことによって、新たなビジ ネスが展開できると言うことである。そのためには、そもそも自社の「モノ」を顧客が購入する目的は何なのか、その点に立ち返って思考することは有効な手段 となりうるのである。今回の事例は、特に墓という保守的にも思える対象にサービスを組み合わせたという点で、示唆に富んでいると思われる。

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